岡目八目

大淵盛人さん

大淵盛人さん

(3)内弟子教育は技術より姿勢

(寄稿連載 2006/06/19読売新聞掲載)

 私たち家族は、平成10年に、神奈川県相模湖町(現・相模原市)に居を移しました。私の子供時代を振り返れば、自然に囲まれており、遊びはいつも自分たちで創(つく)りあげスケールも大きいものでした。同じように自然に触れられる環境を子供に与えたかったのです。

 その2年後から内弟子をとり始め、現在は、今年入段した3人を含めた6人の内弟子と5人の実の子供と共に6DKに暮らしています。結婚するときに「将来は内弟子をとる」と約束を取り付けていたものの、食事の世話や学校行事などで休まる暇のない妻には頭が上がりません。多くの棋士が、内弟子をとりたいと思いながらも、奥さんの負担を考え踏み切れないでいるのもよくわかります。

 さて私は、内弟子たちに、技術的なことより囲碁に向かう姿勢を教えています。幸いなことに、囲碁は内面が反映されますので、弟子たちの打った碁を見れば彼らの姿勢が崩れてきたことを察知できます。負け続けていても、子供たちの目が輝いているときには心配しません。放っておいても彼らはすぐにまた勝てるようになるからです。反対に、あっさり土俵を割ったり、気が抜けたような手を打ったときには気をつけなければなりません。また、相手のミスを期待する、明らかに無理な手を打ったときには、厳しく注意します。楽に勝とうと考え始めると、なかなかそこから抜け出せなくなり、何局かは勝てても、その後、急激に負けていくことになるのです。

 人様の子供を預かることには大変な責任があり、悩むこともしばしばです。叱(しか)った方がよい子もいれば、優しい言葉をかけた方がよい子もおり、当然のことながらしつけにマニュアルはありません。元気のない弟子には、ドライブに連れていったり、一緒に山を散策したりしながら、なるべく内面を探って言葉をかけるようにしています。内弟子生活は、子供たちを鍛える場でもありますが、同時に、師匠である私が鍛えられる場でもあるようです。

(囲碁棋士九段)