岡目八目

大橋拓文さん

大橋拓文さん

(3)正確な形勢判断 可能に

(寄稿連載 2016/05/17読売新聞掲載)

 アルファ碁と李世乭九段の5戦を振り返ってみます。

 第1局、李九段の布石の7手目が、これまでに打たれたことのない手で、アルファ碁を試すような手でした。しかしアルファ碁は的確に対応し、勝利しました。李九段は第2、3局とそれぞれ違う碁を試みましたが、いずれも完敗でした。

 第4局も、序盤早々にアルファ碁が優位に立ちました。しかし李九段が勝負手を放ち、これに対して初めてアルファ碁は対応を誤りました。アルファ碁といえども、囲碁の神様ではないと証明され、ホッとしました。

 心機一転して臨んだ第5局。接戦でしたが、寄せ合いをアルファ碁が制しました。

 プロレベルになるまで10年はかかると見られていたコンピューター囲碁が急速に強くなった理由は、自己学習能力ともいうべきディープラーニングによります。これを取り入れると画像をうまく扱えるようになり、まず、序盤がよくなります。さらにグーグルは、既存のモンテカルロ法や強化学習を組み合わせることで、正確な形勢判断を可能にしました。これがアルファ碁の画期的なところです。

 一方で、この方法は学習に相当な時間と経費がかかります。アルファ碁は、1202個のCPU(中央演算処理装置)と176個の画像処理用のGPUを使用しており、豊富な資金があってこそです。グーグルがこれだけのエネルギーを注ぐのは、囲碁のみならず他の分野でも幅広く活用することを考えてのことでしょう。これによってどのような影響が出てくるのでしょうか。

(囲碁棋士六段)