岡目八目
(3)囲碁で強まる絆
(寄稿連載 2019/08/14読売新聞掲載)土曜日、子供たちは囲碁教室の後、谷中の「初音の森」で仲間と汗をかくほど遊ぶ。学年を超えたタテのつながりもできてくる。負けて泣く子に「僕も泣いたよ。泣いた子は強くなるから」と声をかけたり、囲碁の面白さにはまった子が友達を誘ってきたり。連敗が続いた友だちには「僕が打って教えてあげるよ」と優しさを見せる。
ある園児が家から碁石を持ってきて、クラスで「石はこう持って打つんだ」と実演してみせた。それを見た園児たちが「カッコいいなー」と言って、一気に10人も囲碁を始めた。
2018年3月の「第7回渡辺和代キッズカップ(未就学児)」には教室から24人が参加し、2人がベスト16に入った。
最近では、親御さんも子供と一緒に習い始める例が多い。初心者の大人に対して、子供は容赦せず真剣に打っているのが印象深い。
現代の子供たちは受験勉強を中心とする生活で、また親御さんも忙しく、一家だんらんの時間が乏しい。囲碁を通じて兄弟姉妹、親子、祖父母と会話ができるのは、大きな効用である。
谷中のある園児の話によると、故郷に住む99歳の曽祖父は5歳の曽孫と碁を打つのを楽しみにしており、「強くなったね」と目を細めて成長を喜んでいるという。
またある家族では、夜中に「パチリパチリ」の音が聞こえる。小学1年生の子が夢かと思ったら、いわく「パパとママが碁を打っていたんだ」。一家で囲碁を楽しんでいる微笑(ほほえ)ましい話だ。
囲碁が広がり、多彩なコミュニケーションが生まれる。そして、家庭、学校、地域での絆が強まっていくことを期待したい。
(台東区囲碁連合会会長)