岡目八目
(1)海外普及に尽くした岩本薫
(寄稿連載 2010/07/27読売新聞掲載)◇おおば・のぶゆき
第32回世界アマチュア囲碁選手権が来年、松江市で開かれることになりました。囲碁の海外普及の礎を築いた元本因坊、岩本薫(1902~99)も、地元の先達として喜んでいるに違いありません。
岩本は島根県西部、益田市の出身。私財5億3000万円を投じて、ニューヨークなど世界4か所に囲碁会館を建設しました。その足跡は著書「囲碁を世界に」などで知られていますので、ここでは岩本がなぜ世界に目を向けたかについて触れておきます。
それは1954年、戦後初めて渡米した際、囲碁ファンのアメリカ人から「日本は戦争に負けたとはいえ、独自の優れた文化を持っている。決して肩身の狭い思いをすることはない。碁という優れた文化をなぜ積極的に世界に広めようとしないのか」と言われたのに衝撃を受けたからでした。
岩本は27歳の時、ブラジルに一時移住しました。それ以前、旅館で指導碁をしていたのを巡査にとがめられた体験があり、囲碁を男子一生の仕事とすることに疑問を感じていたのです。その意味では長年悩み続けていた解答を、遠いアメリカの地で見つけたのかも知れません。
私は益田市で薬剤師の傍ら、「囲碁史会」(谷岡一郎会長)に所属して活動しています。そのきっかけは中学生囲碁交流のメンバーとして中国・上海を訪れた時に岩本と出会ったことでした。その後、岩本のことを調べているうち、島根県は本因坊道策をはじめ多くの棋士を生み出し、囲碁とゆかりの深いところであったことがわかりました。そこで島根県と囲碁とのかかわりについて紹介したいと思います。
(囲碁史会会員)