岡目八目
(2)「遊びに若手誘うな」の不文律
(寄稿連載 2017/10/24読売新聞掲載)関西棋院の独立当初こそ、橋本昌二九段らの活躍もあり、関西勢でのタイトル争いが行われ、盛り上がっていたようです。やがて並立状態で安定すると、日本棋院関西総本部、関西棋院ともに冬の時代が到来します。私が碁界を取材するようになったのも、このころです。
当時、関西には、「有望な若手を遊びに誘うな」との不文律がありました。ビッグタイトルに挑戦しても、獲得できない。よく先輩方から「彼は麻雀(マージャン)を覚えて、碁に身が入らなくなった」「あいつは酒で体を壊した」など、有望株の転落ぶりを聞かされました。
棋士はおおむね、凝り性が多いように思います。「ゴルフの打ちっぱなしで、半日で何百球打ちまくった」「雀荘で2日間過ごした」などの“自慢”をよく耳にします。不文律は「碁に集中させよう」との思いが込められています。
ですが、棋士の遊び心の火に油を注いでいたのも、忠告をしていた先輩方だったようです。ある棋士は挑戦者決定戦の前の晩、その棋戦の担当記者から誘われて酒を飲み始め、対局開始直前の朝に解放されました。そのまま寝ずに打って負けてしまい、結局は挑戦者になれませんでした。引退する時に、担当者が「悪かった。もし誘ってなかったら、挑戦者になっていたかも」との謝罪は、目の前で見ただけに忘れられません。もっとも謝罪された棋士は、「ひと晩寝ないくらいで、碁に影響があるわけない」と意に介しませんでしたが……。
ともあれ「不文律」は、そういった先輩方の自戒、後悔の念から生まれたように思えるのです。
(囲碁ライター)