岡目八目

岡崎丈和さん

岡崎丈和さん

(4)遊びのない歯車 摩耗心配

(寄稿連載 2017/11/07読売新聞掲載)

 井山裕太棋聖の登場はいいタイミングだったと思います。師匠の石井邦生九段の薫陶を受けたことが、活躍の原点であることは間違いないでしょう。

 その一方で、環境も整っていました。井山棋聖は院生になる前から「未来のタイトルホルダー」と話題に。各社の囲碁担当も、活躍を穏やかに見守りました。棋聖が初めて世に出た囲碁番組のプロデューサーは、酒席で、「今日は早く帰る」と宣言していました。理由は「ネットで井山と対局するから」。成長が楽しみだったのでしょう。

 井山棋聖に限らず、10代、20代の若手は研究熱心です。複数の研究会に参加して、夜はインターネットで東京や海外の棋士と対局する。そうでなければ勝てない、タイトル争いに参加できないのでしょう。

 ただ、先輩棋士たちの若いころを見てきた身としては、ストイック過ぎて、心配になることもあります。遊びのない歯車の摩耗が激しいように、早く擦り切れてしまうのでは、と。

 “遊び”で思い出すのは、落語家の三代目桂春団治さんです。生前、「遊びは芸の肥やしといいますが、どう生かすのですか」と尋ねた時に、春団治さんは「芸妓(げいぎ)さんのしぐさから、女性の動きを参考にする」と応えていました。でも建前で、本音は遊びありき、のようでした。春団治さんの生き生きとした目が、忘れられません。

 話芸と盤上の芸を一緒にはできません。ただ春団治さんのような図太(ずぶと)さが、若手にあってもいいのでは。もちろん遊びがあり過ぎては、歯車は働きません。調整は大事だと思います。

(囲碁ライター)(おわり)