岡目八目
(1)韓国の躍進、15年前に予見
(寄稿連載 2006/10/16読売新聞掲載)僕が20歳の時のことなので、今からもう15年前になる。日本の若手棋士を10人ほど選抜して韓国に派遣し、向こうの若手棋士と対抗戦を行う企画が持ち上がった。
僕が団長に選ばれたので、メンバーの選抜も一任させてもらい、その結果、趙善津、三村智保、結城聡、楊嘉源といった、20歳前後の棋士としては最強とも言える顔ぶれが集結した。
いずれも伸び盛りで「世の中で自分が一番強い」と思っている面々。「全勝するぞ!」の意気込みで敵地に乗り込んだのだが、対戦相手を見て驚いた。なんと全員が、自分らよりはるかに年下、おそらく14、15歳の「子供」としか思えない少年棋士だったのだ。
「ふざけるな。なんでこんなガキと打たなくちゃいけないんだ」と憤慨している者もいたと記憶しているが、実際に対局してみてすぐに、自分らの考えが完全に甘く、この組み合わせが至極まっとうなものだと納得させられたのである。
各自が6局ほど打ち、日本側がわずか一つの勝ち越し――。誰もが本気で全勝するつもりでいたので、この結果にショックを受けない者はいなかった。
20歳前後の"精鋭"と10代半ばの"子供"が互角。となれば数年後、この力関係がどうなるかは、改めて言葉を費やすまでもあるまい。現在の韓国の躍進、日本の低迷は、すでに15年前に予見されていたのである。
この頃はまだ「日本のナンバーワン=世界のナンバーワン」の図式が、通用していた。韓国や中国が急速に力を付けてきてはいたものの、国際棋戦で日本は、それなりの結果を残すことができていたからだ。
しかし今や、日本が国際棋戦でベスト8に1人も残れなくても、誰も驚かなくなってしまった。並ぶ間もなく差し切られ、その差は今も開く一方と言うべきだろう。
なぜ、こうまで決定的な差がついてしまったのか。次回以降で、その点について僕なりの考えを述べてみたい。
(囲碁棋士九段)