岡目八目
(3)国を挙げて若手育成する中国
(寄稿連載 2006/10/30読売新聞掲載)現在の囲碁界で世界のトップを走っているのは韓国だが、僕は数年後には「中国の天下が来るかもしれない」と思っている。
今年の春、陳耀ヨウという16歳の少年が、国際棋戦のLG杯で準優勝して、大変な話題となった。決勝進出を決めた時点ではまだ15歳だったというから、日本碁界では考えられない若さでの活躍である。
だが真に驚くべきは、中国には陳くんのような若くて優秀な少年が、それこそ掃いて捨てるほど存在するということだ。決して陳くん1人が突然変異の天才なのではなく、彼は氷山の一角に過ぎない。
なぜ中国がこうまで劇的なレベルアップを果たし得たかと言えば、それはもう「国家的プロジェクト」の一言に尽きる。中国がオリンピックなどのスポーツに対して、国を挙げてその種目のエリートを育てるというのは皆さんもご存じのことと思うが、碁に関してもまったく同じスタンスで取り組んでいるのだ。というより「スポーツ以上に力を入れている」とさえ言えるかもしれない。
これは中国事情に詳しい弟弟子の潘善キ七段から聞いた話だが、中国で全スポーツ競技を対象としたスポーツ選手の人気投票を行ったところ、なんと上位10人中の5人を囲碁の棋士が占めたのだという。
また中国のマスコミでは、囲碁のニュースが毎日のように報道されており、その過熱ぶりは他のスポーツを圧倒している。あらゆるメディアでプロの対局結果が刻々と流され、日本で言えばプロ野球報道を想像してもらえればいいだろう。
このような環境の中で子供たちが「よし、僕も将来は世界一になるぞ」という大きな夢を抱かないはずがない。僕が中国に行くたびに清々しく、また羨(うらや)ましく思うのは、こうした子供たちの光り輝く目の色である。正直言って、プロ入りを果たしただけで事足れりと満足してしまう日本の若手棋士とは、この時点で勝負がついてしまっている。
(囲碁棋士九段)