岡目八目
(2)若い人はより高み目指せ
(寄稿連載 2008/07/28読売新聞掲載)弱冠19歳の井山裕太七段が名人戦の挑戦者に決まり、八段に昇段しました。十代でこれだけの活躍ができるというのは本当に大したものです。
数年前、彼の師匠である石井邦生九段から「私の弟子に大変な才能の持ち主がいるんです」と聞いたことがあったので、ずっと注目してはいたのですが、まさかここまで順調に伸びてくるとは。
というのも、私が若かった頃(ころ)は「二十代でタイトルを取ることなんてあり得ない」という時代だったからです。実際、私が初めてタイトルを獲得したのは31歳の時でしたし、偉い先生と対戦しようものなら緊張から委縮してしまい、まったく力を出せませんでした。
それを考えれば井山くんを始めとして山下敬吾くん、高尾紳路くん、張栩くんといった今の若い人たちの精神力は大したものだと感心せざるを得ません。
でも一方で、52歳になった趙治勲九段が今なお第一線で活躍しているというのも、絶賛に値する素晴らしいことです。今年の棋聖戦挑戦手合で山下くんを相手に、タイトル奪取こそならなかったものの、フルセットの激闘を演じたのは本当に見事でした。
まあ彼について言えば、子供の頃から抜きん出て強かったですからね。そして誰よりも勉強をしていました。私は60歳を越えてタイトルを取りましたが、それができたのも若い頃に自分を徹底的に鍛えたからです。
というわけで井山くんや山下くんらの若い人にアドバイスするとすれば「決して現状に満足することなく、より高みを目指して努力を続けなさい」という一事に尽きます。
(二十三世本因坊)