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岡目八目

読売新聞 2008/08/04掲載
坂田栄男さん

(3)大勝負の逆転劇・・・生涯の誇り(寄稿連載)

 私にとっての生涯の大勝負は、昭和38年の旧名人戦、藤沢秀行名人に挑戦した七番勝負でした。
 開幕2連勝と好スタートを切ったのですが、その後を3連敗してカド番に。第6局を迎えるまでの精神的な不安定さと悩みは、いま思い出しても相当にひどいものでした。
 追い詰められて切羽詰まった私はふと、今までほとんど勉強することのなかった江戸時代の御城碁の棋譜を並べることを思い立ちました。それまでの私にとって江戸時代の碁とは「いつも同じ布石の繰り返しで、どこが強いのかまったく分からない」ものだったのですが、絶対に負けられない勝負を控えたこの時は、今までまったく見えていなかったものが見えてきたのです。
 食うか食われるかの勝負所になると、石が躍動し、命が吹き込まれるのです。これは初めて味わう感覚で「自分の名誉に加え、家の名誉も賭(か)けた本当の大勝負とはこういうものか」と目を見開かされたのでした。人間というのは駄目なものですね。自分が追い詰められ、その立場になってみなければ、何も分からないのですから・・・・・・。
 充実した気持ちで臨むことができた第6局に快勝し、逆王手を掛けて迎えた最終第7局でも「坂田の上ノゾキ」と称賛された好手を繰り出して勝利。本因坊と併せての二冠を達成したのでした。逆境を克服してのこの逆転劇は、私の生涯の誇りです。
 また後日、呉清源さんがこの第6、7局を批評された際に、2局とも「坂田は立派な碁を打った」と褒めてくださいました。これがとてもうれしかったのを覚えています。
(二十三世本因坊)
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