岡目八目
(4)瀬越門下三傑 三訓を実践
(寄稿連載 2018/03/27読売新聞掲載)◇さんのう・ひろたか
私の師匠である瀬越憲作名誉九段が、卓越した先見性の持ち主であったことは前回で触れました。
その門下から歴史に名を残す棋士が数多く輩出されたのは、先生の人間としての偉大さの証明でもあります。今回は「瀬越門下の三傑」と呼ばれた名棋士についてお話しいたします。
まずは呉清源九段。この人は天才以上と言うべき存在で、昭和の棋聖と称されるのもむべなるかな――私にとっては雲の上を仰ぎ見るような兄弟子でした。
なお呉さんを中国から連れてくる際、日本碁界では「そんなすごい天才を連れてきて大成されたら、日本の碁打ちはみな負かされてしまうではないか」と反対の声も上がったそうですが、瀬越先生は「そうなったらこぞって打倒呉清源に立ち上がり、それで日本の碁はより盛んになるのです」と答えたそうです。
続いては、のちに関西棋院の総帥となられた橋本宇太郎九段。ものすごい早見え早打ちで、誰が見ても「これぞ天才!」という方でした。「自分は敵わない」と思わされたものです。
最後に曺薫鉉九段。宇太郎さんにはわずかに及ばないものの、この人もやはり大天才です。のちに韓国に戻って全冠を制する覇者となったのも当然でしょう。
瀬越家には「三訓」という弟子への訓示があり、それは「早く打て」「うまく打て」「そして勝て」というもの。これを高いレベルで実践できたのが、お話しした三傑でした。
偉大な師匠と、偉大な兄弟弟子。こうした人たちと同門として過ごせた日々が私にとって何よりの財産となっているのです。
(囲碁棋士九段)(おわり)