岡目八目
(3)弟子と全身全霊で対局
(寄稿連載 2018/1/23読売新聞掲載)◇たかばやし・たくじ
内弟子を取るようになったのは、12、3年ほど前のことです。弟子を取るための広い家を探して、転居もしました。それまで特に、自宅で碁の指導をしていたわけではありません。ただ、その少し前に、とても印象的な夢を見たんです。
「9・11」のような事件が起きて、みんながパニックになっている。混乱している中で、「碁を打てるものはいないか」と声が聞こえた。私が地面の石ころを集めて、地面に碁盤を描いて並べ始めると、混乱が静まっていったんです。
そんな夢の示唆もあって、積極的にプロになりたいという人間は誰でも受け入れようと考えました。
3人目の弟子は、富士田明彦六段でした。最初は三子でちょっと厳しいぐらいだと思っていたのですが、1年半でプロになったのには驚きました。多いときは内弟子は10人ぐらいいたのかな。井目(九子)から教えた弟子もいます。小池芳弘二段は、小学校の低学年で来て、8年間内弟子をしていました。許家元七段だけは来た時から強かった。彼の定先で私が押されるぐらいでした。
棋譜並べや詰碁のように、碁の勉強法は様々ですが、私の指導法は、弟子と対局することが基本です。もちろん打った後に検討もしますが、全身全霊で対局するのが一番だと思っています。公式戦並み、あるいはそれ以上の気持ちで打っています。
院生のレベルも上がっています。持ち時間1時間の碁を4局も打つと、体よりも脳が疲れますね。真剣に打っていると、やらなければいけないことや、約束を忘れてしまう。弊害も色々あるんです。
(囲碁棋士六段)