岡目八目
(4)弟子を育てて碁を見直す
(寄稿連載 2018/1/30読売新聞掲載)◇たかばやし・たくじ
インターネットのおかげで、棋譜や情報を簡単に手に入れることができる時代になりました。師匠の私よりも弟子の方が新しい布石や定石に詳しいし、詰碁もやっている。
でも、実戦の対局は、受験のようなペーパーテストとは違います。特に中盤では、知識が役に立たない世界で戦わなければいけない。いかに自分の気持ちをコントロールするかが大事です。トップクラスの棋士でも、形勢がいいと気持ちが守りに入って、逆転を食らうケースがある。私が弟子と真剣に対局しているのは、人間同士の熱い戦いであることを学んでほしいからです。
今でも家にはプロを目指している内弟子が一人おります。彼を何とかプロにしようと思って打っていたら、私自身も棋戦で勝てるようになりました。以前は内容では押していても、夕方になると疲れて負けてしまうことがよくありました。集中力が増してきたので、本年は勝率5割ぐらいはいけるのではと思っています。
若い頃は、碁の良さが分かっていなかったと思います。生活のために打っているんだ、とちょっと見下していたところもある。でも内弟子を育てる中で、一度は捨てた碁を少しずつ見直すようになりました。今は、神様が人間たちを再生するために碁を与えてくださったのかな、と思っているほどです。
4年ほど前からは、碁と同じぐらい好きだった酒もやめています。世の中のことも、人間のことも、人生のことも、70を過ぎてようやく少し見えてきた気がします。まだまだこれからの人生だと思っています。
(囲碁棋士六段)(おわり)