岡目八目

高木祥一さん

高木祥一さん

(2)コミのない古碁に魅力

(寄稿連載 2017/03/14読売新聞掲載)

 院生時代に並べていたのは、最初は本因坊秀策や本因坊秀和の碁が多かったと思います。ただ、入段が近づくにつれて、本因坊丈和の碁も好きになりました。古書店で買った『秀栄全集』もありましたし、当時は並べるものがいろいろありました。

 丈和の碁はよく力強いと言われますが、僕の感覚からすると、すごく筋がいい、筋の切れ味がいい碁だと思います。もちろんあらゆる強さの要素を兼ね備えていると思いますが、根性があって、精神力も強そうです。

 江戸時代の碁は、現代のように、コミがありませんでした。例えば丈和の碁を見ていても、黒であれば鉄板のように手堅く打ち、白番であれば形勢を挽回するために何らかの趣向を仕掛けている。古碁のそんなところにも魅力を感じたのだと思います。

 勉強法はその時々で変わっていますが、気に入った同じ棋譜を何度も並べていた時期もあります。江戸末期に打たれた秀策と本因坊秀甫との十番碁などは、並べた回数は10回どころではないと思います。よく使っていた和とじ本の全集は、ぼろぼろになって、とじていた部分が壊れてしまったこともありました。そういう時に父(書家の高木三甫さん)が直してくれたこともありました。そんな本が今でも家に2、3冊あるでしょうか。

 最近は古碁を並べる機会はぐっと減りました。それでも1年に1回ぐらい、丈和や秀和の全集を引っ張り出すことがあります。

 若いときは強くなりたいと思って勉強していたけど、今はすばらしい内容の碁を並べているのが楽しいんです。

(囲碁棋士九段)