岡目八目

竹本健治さん

竹本健治さん

(1)大学囲碁研で棋力アップ

(寄稿連載 2018/06/27読売新聞掲載)

 ◇たけもと・けんじ

 僕が碁を覚えたのは高校2年の頃だった。親父(おやじ)も爺(じい)さんも碁を打つので、もっと早く覚える機会はあったのだが、残念ながらそのチャンスをのがし、先に覚えた弟から教えてもらったのだった。

 同じく覚えたての友人とザル碁を打ちはじめたのだが、これは面白いとすっかり夢中になり、大学では漫画部か囲碁部にはいろうとまで思い決めていた(当時僕はマンガ家志望だったのだ)。で、両者を覗(のぞ)いてみたところ、漫画研究会のほうはちょっとレベルが低いかなと思い、結局囲碁研究会への入部を決めた。

 入部当初はアマ8級くらいだと言われた。そしてその後はマンガの同人活動と囲碁に明け暮れる日々。学生のうちにマンガではなく、ひょんなことから小説のほうでデビューすることになったのだが、囲碁研通いは二日に一度のペースで変わらず続けた。碁関係の本も読みあさったし、とにかく碁を打つのが楽しくて楽しくて仕方がなかった。

 その甲斐(かい)あって、大学を出る頃にはアマ四段くらいになっていた。とはいえ、同じようなレベルで囲碁研にはいったほかの連中も卒業の頃にはみんな僕と同程度になっていたので、決して僕は特に碁の才があるほうではない。逆に言えば、ある程度若い頃に4年ほど集中的にみっちりと碁を打てば、誰でもその程度には行けるものだというのが体験的な実感である。

 弟も大学で囲碁研にはいり、やはり僕と同じレベルになったし、はじめは初段くらいだった親父もそれで囲碁熱が高まり、最終的に六段の免状を取っているので、これは大きな親孝行だったかも知れない。

(作家)