岡目八目
(2)長編2作目に囲碁棋士探偵
(寄稿連載 2018/07/04読売新聞掲載)小説デビューを学生中に果たし、大学を出たあと、長編の2作目を書くことになったとき、ある人から「君は囲碁が好きなんだから、それをテーマにして書けばいいんじゃないの」と言われた。そんな発想はまるでなかったが、言われてみれば、それを書けば本邦初の長編囲碁ミステリになるなという想いにもモチベーションを掻き立てられ、結果、書きあげたのが『囲碁殺人事件』(1980年刊行)だった。そしてこれが僕の代表的なシリーズキャラクターである囲碁棋士探偵・牧場智久の初登場作品となった。ちなみに、内田康夫さんが『本因坊殺人事件』を上梓するのがわずかに1年後である。
『囲碁殺人事件』にも棋譜を使った暗号や謎の珍瓏(ちんろう)(盤面全体に及ぶ詰碁)を組みこむなどして、めいっぱい趣味に走ったのだが、その後、『ウロボロスの純正音律』(今年6月に講談社で文庫化)というミステリでは、さらに凝った作りの珍瓏や棋譜を組みこんで、少々度が過ぎるくらいに趣味に淫している。
また、酔狂な出版社さんからのお誘いがあって、『入神』という一冊本の長編囲碁マンガも描き、途中で小説に転向したせいでずっと憧れを引きずっていたマンガ家デビューまで果たせたのは望外の出来事だった。
こうして仕事にも大きく囲碁をリンクさせ、公私にわたって様ざまなかたちで楽しんでこられたのは、アマの囲碁好きとしてはなかなか得難い幸運だったと思う。
そしていつしか、一貫して自分本位の生き方をしてきた僕にも、囲碁に対する恩返しをしなくちゃな、という意識が芽生えてきたらしい。
(作家)