岡目八目
(3)実戦不足から熱中時代再び
(寄稿連載 2018/07/11読売新聞掲載)『囲碁殺人事件』を書いて囲碁好きが知られたおかげで、「週刊ポスト」が主催していた文壇名人戦からお声がかかり、参加するようになった。江崎誠致さんや富島健夫さんや中野孝次さんがお元気だった時代。
しかし、大学を出たあとは慢性的な実戦不足が悩みで、文壇名人戦以外は年に数局打てるかどうかという状況が20年ばかりずっと続いた。
とはいえ碁の本を読むのは好きだし、詰碁も暇があれば続けていたので、その期間に棋力は五段くらいにあがっていただろう。
そうしたところ、ひょんなきっかけから、とある囲碁会に頻繁に出入りするようになり、また同時期にネット碁をやりはじめたこともあって、長らく悩みだった実戦不足が一挙に解消した。これが人生第二の熱中時代のはじまりで、そこから自分でも面白いくらい、あれよあれよと三子はあがったと思う。
やがて文壇名人戦がなくなり、寂しいなと思っていたところ、新井素子さんの尽力で推理作家協会に囲碁同好会が復活し、僕がその幹事長に押し立てられてしまった。元来人の上に立つのも世話をするのもまっぴらだという生き方をしてきた僕だが、及び腰ながらもそれを引き受けたのは、前回書いたように囲碁に対する恩返しをしなきゃなという意識が芽生えてきていたせいだろう。
少し遅れて作家の三好徹さんの呼びかけで、はるか昔にあった文人碁会の復興もなされ、現在はこの二つが文壇碁界の大きな交流の場となっている。ちなみに、それぞれ年一回の推協名人戦はオール置碁、文人名人戦はオール互先である。
(作家)