岡目八目
(1)浮世絵に活写された囲碁
(寄稿連載 2012/11/20読売新聞掲載)◇わらしな・みつはる
囲碁と浮世絵という異なる伝統文化の意外な結びつきについてつづった「浮世絵に映える囲碁文化」(日本評論社)を、この10月に上梓(じょうし)しました。
この本を書いたそもそものきっかけは、日本棋院の浮世絵カレンダーでした。このカレンダーは、源氏絵、武者絵、役者絵、そして美人画など、それぞれの特色を生かしながら厚い和紙に美しく映え、しっとりとした優雅な雰囲気に仕上がっています。
昨年秋、碁会関係者などの協力のもとに大震災で大きな被害を受けた東北3県に碁盤セットを贈りました。その支援活動を積極的にサポートしてくれた方々にこのカレンダーをお送りしたところ、すべての方から「異なる伝統文化の結合」に対する驚嘆と感動の思いを語る手紙やメールをいただいたのです。
囲碁文化は、古来、「琴棋書画」として優雅の代名詞とされてきました。今回の体験を踏まえ改めて浮世絵を見直してみますと、囲碁文化は、まさに絵画のモチーフとしての特性と輝きを持って、源氏絵、武者絵、役者絵、そして美人画などに登場していることがわかりました。
源氏絵で有名な三代歌川豊国は「源氏香の図 空蝉(うつせみ)」、外国人まで驚かせた葛飾北斎は「碁盤人形」、美人画の巨匠喜多川歌麿は「琴碁書画(きんきしょが)」と、浮世絵界を代表する巨人たちが、さまざまな形で囲碁の場面を活写していることに驚かされます。
それほどに囲碁が庶民に親しまれ、碁盤、碁石、碁笥(ごけ)などがその場の雰囲気をより高めるための格好なアイテムとして、浮世絵師の創作意欲を刺激したのではないでしょうか。
(棋道懇談会会員)