上達の指南

許家元三段の「今年この一手」

(2)井山棋聖 鮮やかな決め手

(寄稿連載 2015/12/08読売新聞掲載)

 今年の自分を振り返ってみると、新人王戦で優勝できたことはうれしい出来事でした。全日本早碁オープン戦の準優勝もそれなりの結果かとは思いますが、決勝で井山裕太棋聖に完敗した悔しさのほうが大きいです。自分と井山先生の間には、まだまだ大きな差があることを思い知らされました。
 井山先生の強さはどこにあるのか――。その答えはいくつも浮かびますが、僕が考える最大の要因は、相手がミスをした時に自分が最大限に良くなる図を追求できる点です。「これくらいで十分」と妥協せず、もっと良い図を探し、実現してしまう。本当にすごいと言うしかありません。今回取り上げるのも、井山先生が一瞬にして勝負を決めてしまった場面です。

 【テーマ図】 黒1のツケが決め手の手筋。鮮やか過ぎる一手ですが、ここに至るまでの構想が素晴らしいのです。

 【1図】 少し手順を戻します。劣勢を意識した余七段が白1と模様を広げて頑張ったところで、黒2と白3を換わって黒4、6と出切り、白7に黒8と押さえ込む――。これが白1の広げ過ぎをとがめた最強手段で、白15となったところで黒16のツケが飛び出しました。

 【2図】 Aのワリコミを見られているので、実戦の白1、3は仕方ありません。黒4と突き破った上、黒6で左上白を取り込んでは大成功。
 黒8と左下に先着して、あっという間に勝勢です。

●メモ● 許三段は昨年の第1回棋戦優勝者選手権の準決勝でも、井山棋聖に完敗を喫している。「井山先生と打つと、いつも前半ですぐに悪くなってしまう」と力不足を認めながらも、「次に対戦させてもらった時は」と雪辱に燃えている。「僕の課題は布石にあります。その点を克服できれば――」

第63期王座戦挑戦者決定戦
白 七段 余正麒
黒 棋聖 井山裕太

【テーマ図】
【1図】
【2図】