上達の指南
(1)大胆で絶妙な捨て石作戦
(寄稿連載 2013/01/08読売新聞掲載) 11月1日が「古典の日」と定められました。日本古来の文学や伝統文化・芸能などに深く国民が親しみ、理解を深めてもらう趣旨だそうです。
囲碁の世界で言えば、初代本因坊算砂から打ち継がれてきた名局の数々は日本が世界に誇る古典です。中でも最も人気があるのは、江戸後期に活躍した本因坊秀策(1829~1862)でしょう。堅実な布石、華麗な手法は、現代の私たちも学ぶものが多くあります。今回は捨て石の妙を味わってください。
【局面図】 秀策の白番で、黒9に白10の開きが工夫の一手。普通は白11と立ち、黒イに白10ですが、コミなしの白番だけに14まで地に辛く打っています。
左下の大斜定石は現代でも打たれますが、白シチョウ有利のときは白32から34のハネ出しがあり、黒の左一郎はうっかりしたのでしょう。黒55とつけられたところで、秀策の見事な捨て石作戦が始まります。
【実戦図】 白1のツケから3が見事な返し技で、黒6まで捨てても白7と締まって形勢よし、と見ています。この捨て石はまだ死に切っておらず、白イが左辺に利くと、白ロ、黒ハ、白ニの復活が残っているのです。
【参考図1】 白1の押さえは、黒2、4と実力行使され、ピンチに陥ります。
【参考図2】 実戦の白1に、黒1とまともに受けるのは、白2、4と強引に押さえられ、白12で黒つぶれです。
●メモ● 林七段は昨年10月、日本棋院から「美の有段詰碁100」上・下巻を出版した。タイトルに有段とあるが、各題に「ヒント例題」を付け、級位者にも解きやすくしてある。兄弟子の張栩棋聖が、「彼の詰碁は美しい。解いた後に爽快感を感じます」との言葉を寄せている。
本因坊秀策
先 岸本左一郎
(嘉永3年=1850年)