上達の指南

林漢傑七段の「本因坊秀策に学ぶ」

(2)意表を突く見事なサバキ

(寄稿連載 2013/01/15読売新聞掲載)

 本因坊秀策が活躍した江戸後期と現代を比較すると、コミと時間制限の有無が大きな違いです。コミのない白番では相当な創意工夫を必要としたようで、秀策の華麗なサバキを度々見ることができます。

 【局面図】 大先輩の伊藤松和との一局。黒1、3、5の小目から有名な「秀策流の布石」です。ただし打ったのは松和で、秀策は逆に試されているかのようです。それだけ秀策流は評価されていたのでしょう。
 左下隅、白18とはさみ、32までの運びは現代でも見られる手法です。
 黒33の一間高ガカリは当時では珍しく、白34のハサミ以下黒37のカケは現代碁そのままです。黒65の打ち込みから69とケイマされ、秀策、ピンチに陥ったかに見えますが――。

 【実戦図】 白1のツケは黒2と換わって本来は悪手ですが、白3の置きが関連した絶妙のサバキでした。白5も意表のツケで、17まで見事なサバキです。

 【参考図1】 実戦図の黒4はやむを得ず、これで黒1と遮断するのは、白2と隅を先手で生きられ、さらに4以下8まで逃げられて黒さっぱりです。

 【参考図2】 また実戦図の黒6で、黒1と押さえると白12まで稼がれ、しかも16と逃げられて黒いけません。
 ここまで仕掛けるには、秀策は相当な時間を費やしたでしょうが、素晴らしいサバキにただただ感嘆するばかりです。

●メモ● 林七段は、昨年の竜星戦決勝で井山裕太本因坊と対戦。寄せに入る頃には勝つチャンスもあったが、惜敗した。井山本因坊とは、気さくにネット対局するほど親しい間柄。「本因坊は、形勢がどうあっても動じることなく、強かった。この貴重な経験を次に生かしたい」

本因坊秀策
先番 伊藤松和
(嘉永4年=1851年)

【局面図】 47(37)
【実戦図】
【参考図1】
【参考図2】