上達の指南
(3)中央感覚の素晴らしさ
(寄稿連載 2013/01/22読売新聞掲載) 「耳赤の一手」といえば秀策を代表する妙着です。皆さんもご存じでしょう。中盤、やや苦しい局面のとき、井上因碩の様子見の一手に応じず、中原にポンと打ったのが絶好点で、瞬間、因碩の耳が赤くなり、形勢が逆転した、という逸話です。
秀策は中央感覚にも秀でたものを持っていたのです。
【局面図】 その後、退隠した幻庵との特別対局です。
黒5以下9までは当時よく見られた定型です。
黒37のカカリに白38とつけられたとき、秀策は黒39と左辺に先行しました。これは現代でもよく打たれる足早な手法です。黒39で43にはねると、白44、黒45のとき、白39と開かれ、白の注文通りになります。こんな柔軟な手を150年も前に打っているのですから驚きです。
白80の頭ツケが変幻自在の幻庵流ですが、秀策の対応が見事でした。
【実戦図】 ツケに手を抜いて黒1と中央へ先着したのです。冷静な好判断です。白2の伸びに黒3、5と利かし、7と中央を大きく囲う。この中原感覚が素晴らしく、一挙に優勢となりました。
【参考図1】 ツケに対し黒1と受けるのは平凡で、白2の押しから一本道で白12まで。次にAの動き出しなどを狙われます。
【参考図2】 黒1にはねるのも大同小異で、白2のハネから8の動き出しを敢行され、白の策にはまります。
●メモ● 林七段はスポーツマンで、対局の前日にはジョギングを欠かさない。約30分、距離にして5キロほど走る。「頭がスッキリし、対局に備える心構えができる」。日本棋院の棋士野球部にも属し、バドミントンにも取り組むなど、幅広く楽しんでいる。
井上幻庵(十一世井上因碩)
先番 本因坊秀策
(安政2年=1855年)