上達の指南

林漢傑七段の「呉清源師名局選」

(1)ため息の出るスピード感

(寄稿連載 2015/03/03読売新聞掲載)

 昨年、100歳で亡くなられた呉清源先生は、私の師匠、林海峰名誉天元の師匠であり、私は孫弟子になります。私にとっては伝説の大棋士です。
 先生の名局を私なりに選んでみました。最初に取り上げたいのは木谷九段との一局です。両師はよきライバルであり、新布石の共同研究などで知られる親友でもありました。
 先生の碁には卓抜した芸が数多く見られますが、スピード感は真っ先にあげたいものです。

 【局面図】 白38に黒39と飛んだのが面白い発想です。

 【参考図1】 上辺はダメ場に見えるので、黒1と詰めたくなります。しかし白2、4と平易に飛ばれて、▲が無力化してきます。

 【実戦図】 黒1のボウシから持っていき、黒3以下、右辺の黒を捨てる構想です。普通、黒7ではイと飛びますが、白ロと飛ばれ、自然に▲の石が働かなくなってきます。
 黒13まで3子を捨てた後、15のツケが厳しい。当初からの狙いのようでした。白16に有無を言わせず黒17以下21まで目いっぱい上辺を大きくまとめて、優勢を確立しました。
 思わずため息が出るほどのスピード感あふれる打ちっぷりではありませんか。

 【参考図2】 実戦図の黒15では、黒1の詰めが普通の着想ですが、白2のコスミ以下6と出られ、実戦に比べ上辺のスケールが格段に見劣りします。

●メモ● 林七段が呉清源師に会ったのは2回。最初は師匠、林海峰名誉天元のお嬢さんの結婚式。2回目は一昨年で、呉師の99歳の誕生祝い。縁のある棋士が集まったが、兄弟子の張栩九段と一緒に碁の話を聞くことができたという。「一生の思い出になりました」
写真=呉師(左)と木谷九段。対局後の検討風景

第3期日本最強決定戦
白 九段 木谷実
黒 九段 呉清源
(1960年4月)

【局面図】
【参考図1】
【実戦図】
【参考図2】