上達の指南
(4)狙い秘めた味わいの一手
(寄稿連載 2015/03/24読売新聞掲載) 呉清源先生が50代半ばになられての対局です。いつもの華麗な打ち回しとは違い、珍しく力をためた渋い一手を披露されました。
【局面図】 白4と二間高がかりしました。厳しい棋風でドリル戦法と称された梶原武雄先生との一局だからでしょうか、左右の隅の定石が連係する珍しい進行となりました。
黒49と左上隅を取りに行ったのがよかったかどうか。黒67まで、取ったというよりは、取らされた感があります。
戦いは下辺に移ります。
【参考図1】 局面図の黒77の曲がりは疑問だったようです。黒1の切りから3と押して2子を取り合い、黒Aと開いておけば「オワ」だったのではないでしょうか。いや、「バカモン!」と泉下の梶原先生に叱られるかもしれませんが――。
【実戦図】 下辺の黒3子を取っているにもかかわらず、白1と手入れされたのには感動しました。これで様々な利き味を消しているのです。狙いを秘めたいぶし銀の味わいの一手でした。
その狙いとは白5以降の手段です。黒14と出られたとき、白1が働いているのがお分かりでしょう。
【参考図2】 白1と飛んで3から仕掛けても、黒12に白13と手を戻さざるをえません。黒14となっては不発です。
いったいどこまで先が見えているのか。まさに神様の碁です。
(おわり)
●メモ● 呉清源師を送る会が4月5日午後1時から、東京・市ヶ谷の日本棋院を会場に催される。一般のファンも出席できる。献花に代えて遺影に向かって置かれた碁盤に石を献じる。張栩九段、林漢傑七段ら孫弟子が企画し、会葬者が一手ずつ打つ追悼連碁も行われる。
写真=呉師(1973年)
第7期プロ十傑戦
白 九段 呉清源
黒 九段 梶原武雄
(1970年7月)