上達の指南
(3)常識にとらわれない発想
(寄稿連載 2015/03/17読売新聞掲載) 呉清源先生の碁には、常に常識にとらわれない発想がありました。1933年、本因坊秀哉名人との碁で試みた第一着を右上隅三々、続いて左下隅星、そして天元の奇想天外な布石は、その最たるものでしょう。
【局面図】 黒の二連星に白の向かい小目は、昭和を代表する布石の一つです。左上隅、黒7以下15までの小ナダレも懐かしい進行です。
黒29のハイには白32のカケツギが普通ですが、黒33、白31に黒イと挟まれるのを嫌ったのでしょう。黒31の切りに白32以下42のツギまで呉清源流の華麗な捨て石です。
黒43の飛び曲がりに、常識にとらわれない奇手が出ました。
【実戦図】 なんと白1とのぞいたのです。アマの皆さんの対局では見かけますが、プロの碁では悪手とされ、私など考える前に却下です。
黒2のツギに白3と背後から迫り、以下13まで、のぞいた石をうまく利用して左辺一帯に大模様を築きました。見事と言うほかありません。
【参考図1】 常識的には白1と受けるくらいですが、先生は、利かされと見られたのでしょう。確かに黒2、4と軽快に運ばれてみると、黒ペースになりそうです。
【参考図2】 白のノゾキに、黒1と上をついだのなら、白2、4の出切りから2子を捨て、白16と大きく構えて実戦同様に十分でしょう。
●メモ● 林七段と鈴木歩六段夫妻の長女、優月(ゆづき)ちゃんはかわいい盛り。昨年6月誕生。鈴木六段が対局のときは林七段が育児担当。碁の勉強の際は傍らで見せるようにしており、最近は石を打つまね事も。夫妻より双方の両親が、プロ棋士に、との希望を持っているという。
写真=本十番碁で対局する呉師(左)と坂田八段
打ち込み十番碁
白 九段 呉清源
黒 八段 坂田栄男
(1954年5月)