上達の指南
(2)隙を突き電光石火の攻撃
(寄稿連載 2014/03/10読売新聞掲載) 呉清源先生の碁は一瞬の隙を見逃さない鋭さがありました。電光石火の攻撃が見ものの一局です。舞台は成田山新勝寺です。
【局面図】 白32のハネから34のツケ一本で手を抜くのは、呉先生らしい華麗さです。
黒47の伸びまで、コミなしの碁ですから黒が先番の利を保っていると思われます。ところが白48のケイマに黒49とつけたところから、瞬時に白が優勢を確立します。
【参考図1】 黒1のツケには、普通は白2と伸び、4のコスミを利かせて白6と転じるくらいです。白10まで左上を整形すると、黒11とあおられます。これは白がつまらないようです。
【実戦図】 白1のツケが一瞬の隙を突いた強手でした。黒2に白3のツケがこれまた強烈な手筋。カミソリのような鋭さです。藤沢先生は虚を突かれ戸惑ったことでしょう。
黒4は最強の抵抗ですが、白5となだれ込まれては散々な格好です。
【参考図2】 実戦図の黒4で、黒1と受けるのは白2と割り込まれます。以下白6と簡単に治まられては面白くありません。
局面図に戻ります。結果論ですが、黒49はイと一路控え、白ロ、黒ハ、白ニとなるのが相場かと思います。
しかし藤沢先生は黒イのような生ぬるい手は打てなかったのでしょう。また、その後の鋭い攻撃など思いもよらないことだったと思います。
●メモ● 林七段夫人の鈴木歩六段が女流名人戦の挑戦権を獲得し、謝依旻女流名人との三番勝負に臨んでいる。昨年6月の出産以降は子ども中心の生活で、研究会への参加などは皆無。家で詰碁に励む程度というが、成績はよい。「精神面が安定しているのがよいのでしょうか」と林七段。
写真=新勝寺対局の打ち掛けの夜、仲良く卓球に興じる呉(右)と藤沢
打ち込み十番碁
白 九段 呉清源
黒 九段 藤沢庫之助
(1952年7月)