上達の指南
(2)奔放で力強い“銘エン流”布石
(寄稿連載 2005/12/12読売新聞掲載) 現在、布石分野で意欲的に未知の世界を開拓しているのが、王銘エン九段。日本碁界屈指の個性派です。今回は名人リーグの銘エンさんと小県真樹九段戦から取り上げます。
【テーマ図】 新手と言えるか分かりませんが、黒1の二間飛びが銘エンさんらしい力の一手。昭和の初めころの新布石時代をほうふつとさせる奔放さですね。黒1と白2は「虚」と「実」の交換だから、つくづく勇気がいります。
続く黒3が先の二間飛びとワンセットで、見てのとおり下辺を広げる作戦です。黒3はこれに限り、ここでAなどと「実」を取りに行くと、下辺がいかにも平板。黒1の「虚」が生きません。
【1図】 実戦の進行です。白1でaと実利を欲張ると、黒1、白b、黒cと下辺がいよいよ拡大してしまう。白9まではしかたないでしょう。
【2図】 続いて、白1と開くのが相場ですが、この手でaと下辺を割っても、次に黒bと迫られるのがきつい。右下の白が攻められるうちに、今度は中央から右上に黒模様が広がってしまいそうです。実戦、黒2と引き締めて、私には黒のムードがよく見える。このあと、白cと殴り込んできた石を取りきって、黒の中押し勝ち。つくづく構想が大きく、力が強いですね。
中央の価値や布石速度が大幅に見直された新布石時代には、星や三々、それに5の五やら、辺に打つのでも辺の星の一路中央寄りに展開するなど、いろんな手がはやりました。創始者の木谷実先生や呉清源先生がそんな布石で勝ちまくって、一大ブームが起きたんです。
「新布石是か非か」と日本棋院の機関誌「棋道」で大きく特集されたほどです。前田陳爾九段(当時五段)が「あの布石がよいのではなく、木谷さん、呉さんが強いのですよ」とコメントを寄せていましたっけ。
前田先生は「ただ、棋(碁)というものは、ますます広いということが立証されたわけですね」と続けています。現代の私たちも、銘エンさんの手法からあらためて碁の広さを感じることができますね。
●メモ● 安倍九段の趣味は登山。最近、特に入れ込んでいて、関東近辺の山に週2回は出かけているという。年間100日の山行が目標。「健康法として、山歩きが一番だと思うね」