上達の指南
(3)ナダレ定石「白1の切り」
(寄稿連載 2005/12/19読売新聞掲載) 難解形の代表格といえばナダレ定石。変化がそれこそ無数にあるうえに人気の形ですから、毎年のように新手、新型が登場します。
【テーマ図】 十段戦予選決勝、蘇耀国八段―鈴木嘉倫六段戦。鈴木六段の黒番です。これまで白1ではAの内曲がりか、Bの外曲がり、どちらかしかなかったのですが、それにもうひとつ有力な変化が加わりました。白1の切りが話題になった新手です。
この形は韓国で昨年あたりから、ずいぶん研究されていたようですが、日本ではこの対局で初めて試されました。白1切り込みは、あとの変化を見るとわかるように、隅の黒2子を頑張って取ろうという、地にからい発想です。この白1に対する応手は黒CかDの抱えしか考えられません。
【1図】 実戦はC、つまり黒1を選びました。黒3の切りには白4、6とはうしかないところ。これで隅は一応取れているのですが、黒15の抑えが利いては黒が厚く満足の分かれでしょう。
だから、私は白10では15とさらにもう一本はって黒の伸びと換わるべきだと思う。それから白10の抜きに回って、今度は隅の黒地が大きいと判断します。
ただ、これは見解が分かれるところで、序盤から二線を何本もはうようではつらい、というプロも多いんです。そのように考える人は白8で10と抜き、黒8に白11と隅に手を戻すくらい。
【2図】 次に、テーマ図の黒Dを見ていきましょう。黒1の抱えですが、これは白2と2子を取る。黒3の抜きには白4と取りきっておくところ。
やはり黒5の切りに、今度は白6から8と抑え込みます。黒11は左辺の3子を捨てる意図。黒17までで一段落。黒からaで利かすかbあたりで利かすかは、後の展開しだい。黒は厚みで打てるし、白も実利を得て、互角の分かれでしょう。2図のあと、すぐに白a、黒c、白dと切って戦いを挑んだプロの実戦例もありますが、それは黒が戦えるでしょうね。