上達の指南
(4)しゃれた第3応手に納得
(寄稿連載 2005/12/26読売新聞掲載) よく知られている定石でも、よい新手が隠されている。身近なところに意外な宝が埋もれている。今回はそういう「幸せの青い鳥」のような新手を取り上げます。
【テーマ図】 棋聖リーグ、今村俊也九段―山下敬吾九段戦。左上はポピュラーなツケヒキ定石ですね。これまでは白3に対して黒AかBかしか考えられなかったところ。黒番の今村さんがしゃれた第3の応手を見せてくれました。
黒4のトビがなんともいえず好感覚。打たれてみれば納得の一手ですね。
【1図】 というのも、この形で左辺を決めるとすれば、黒1から白4まで。こうなるなら、黒aにあるよりも▲の方が形がスマートで、中央に対しての働きがずいぶん違う。
小松英樹九段によれば、伝説のアマチュア強豪、安永一さんが20年以上前に唱えた手だそうです。筋にうるさかった安永さんらしいね。小松さんも実戦で打ったことがあるらしいけれど、棋譜の残っていない対局だけに、こっちは確かめようがありません。安永さん、小松さんには悪いけれど、今村さんの新手としておきます。配置は違いますが、今村さんはこの対局の3週間ほど前の名人リーグでも打っており、それが初出のようです。
【2図】 そういえば関西のアマ強豪、西村修さんが、△のぞきに対して黒1と打っていました。中央志向の西村さんならではの豪快さ。白2から4と戻れば、黒5でしょう。白a切りには当然黒bから捨てる予定。これも面白い手ではありますが、さすがにプロの対局ではお目にかかったことがありません。
【3図】 これは私の実戦から。テーマ図から1か月ほど後の金沢秀男七段との対局です。
つい黒1にのぞいた私が悪かった。この局面では、白4がじつにピッタリ。下辺白6の三連星と呼応して、白10までは白に雰囲気が出ている序盤ですね。私が勝つには勝ちましたが、白4のおかげでずいぶん苦しめられました。(おわり)