上達の指南

菅野昌志六段のあなたも使える うわ手の手口

「AIっぽい」って何?(2)立体的な中央の連打

(寄稿連載 2017/08/29読売新聞掲載)

 人工知能(AI)の碁の特徴は、「石の効率を重視すること」である。特に序盤にそれが顕著だ、とは先週の孔令文七段の解説だ。

 さらにいえば、AIは「打ちたいところが多くて、何をすればいいのかが難しい局面で、特に中央の打ち方で人間以上の構想力を見せる」と孔七段。その典型が本局、先週も取り上げた「アルファ碁VSアルファ碁」の7局目だ。

 「左辺から中央にかけての模様をどう盛り上げるか。手が広くて、打つ手が難しい」と孔七段は「テーマ図」について解説する。下手な手を打つと、形勢を損ねてしまいそうな局面。白が選んだ手は△だった。

 星にケイマにかかられた白が、小ゲイマに受けた手から三間に飛んだ手、とでも言えばいいのだろうか。ちょっと一言では形容し難い着手点である。

 「人間の感覚では、参考図の白1、星からケイマにボウシする手が普通でしょうか。下辺の打ち込みを見ながら、左辺を盛り上げるねらいです」と孔七段。

 「ただ、黒が2から6と下辺を補強した後に、白の打つ手が難しい。ぴったりした着手がなかなか見つからない」

 実戦は、白1の「形容しがたい手」の後、黒2~6と進んだ。孔七段が参考図で挙げたのと、同じ進行である。次に打たれた白7で1の構想が明らかになる。1と7のコンビネーションで、何となく左辺がほっこり豊かになり、40~50目見当の地模様ができあがった。

 「黒2~6と進むのであれば、白石は参考図の1よりも実戦の進行の1にある方がいい。黒が強いところにわざわざ近づく理屈はないわけですから」

 白7の地点は、左上で白が黒石を取っているシチョウの補強にもなっている。自陣の弱点を補強し、地模様を盛り上げ、中央での発言権を強くする。最後まで微細な形勢が続いたが、結果は白の中押し勝ちだった。

 「テーマ図の局面で最善かどうかはともかくとして、私たち人間にはなかなか思いつかない構想」と孔七段はいう。立体的な中央の連打が「AIっぽい」一局である。

●メモ● 先週、今週と紹介した棋譜は、アルファ碁がアルファ碁と自己対戦して作成したもの。50局の公開後、「プロ棋士でも理解できないほどのレベルの高さ」と話題になった。ある日本のトップ棋士はアルファ碁の実力について「人間のプロは、3目置かなければ勝てないかも」という。

【テーマ図】
【参考図】
【実戦の進行】