上達の指南

人工知能(AI)の碁「AIっぽい」って何?

(3)緩急の呼吸 AIの「対話」

(寄稿連載 2017/09/05読売新聞掲載)

 今回は、人工知能(AI)の中盤を見てもらおう。テーマ図は、アルファ碁がアルファ碁と自己対戦した碁。中国の動画配信サイトが独自に公開した一局である。

 黒1と白2。「どちらも人間では思いつかない手」と孔令文七段はいう。「ただ、これが趣深いんです」

 ポイントは右上、参考図1の▲の一団だ。厚みだったはずの黒石が、攻められかねない情勢。「黒イ~白ニの進行が普通でしょうが、こう打っても2眼を確保したとは言えず、黒の方針が非常に難しい局面」

 黒は上辺を打たず下辺を補強した。ここをはっきり生きておけば、△の一団だって決して強い石ではない。△に不安があれば、▲も激しく攻められない、という理屈である。

 「つまり、黒1は力をためた手。じっくりと腰を落として白に『どう打つのか』と聞いているのです」

 ここを打つなら「人間がまず考えるのは、参考図1のaのサガリ、黒1とコスむ感覚はない」。その違いは――。

 「参考図2の1は、次に黒イとすべれば、下辺の白の目を完全に取れる利点があります。ただ、黒3には白4の抵抗があり、黒11の後、白Aと黒2子を取られて面白くない」。黒Aのコスミだと、この反発はない。全体の石に、より弾力性もある。

 「さあ、どう打つ」と聞かれた白は参考図1の2とコウを仕掛けた。「こんな狭いところから仕掛けるなんて」と孔七段。黒Aと妥協するのは形が崩れるうえ、白Cに打たれて黒全体の眼形があやしい。とはいえ、白A、Bと抜かれると攻防が逆転する。

 実戦の進行を見てみよう。黒は1とコウを取った後、3と手を入れて後顧の憂いをなくした。その間に白は2、4と好点を連打した。

 「黒3の“不急の一手”を打たせて、人間なら白が成功したと判断すると思います。ただし、下辺の白石も弱体化したので、今後、白黒共にそれぞれの弱石をどう処理するのかが勝負所」

 黒が力をためた瞬間、機敏に白が仕掛ける。この「緩」と「急」の呼吸が「まさに『棋は対話なり』ですね」と孔七段。この碁は黒の半目勝ちだった。

●メモ● 今回のシリーズで紹介した棋譜はすべてアルファ碁のものだが、他のAIも着実に実力をアップしている。好例が、8月16、17日に中国で行われた「2017 中信証券杯 第1回世界電脳囲碁オープン戦」。優勝は日本のDeepZenGoだったが、準優勝した台湾のCGIの活躍が目立っていた。

白 アルファ碁
黒 アルファ碁

【テーマ図】
【参考図1】
【参考図2】
【実戦の進行】