上達の指南
(4)早い時期の三々入り
(寄稿連載 2017/09/12読売新聞掲載)人工知能(AI)が打ち始め、プロ棋士たちもその優秀さを認めた「序盤の新常識」が増えている。 その典型が、「早い時期での三々入り」だろう。
テーマ図が、記念すべき初出局。昨年末、インターネットの対局サイトで打たれたこの碁は、黒番のアルファ碁がマスターを名乗り、世界のトップ棋士たちに60連勝を飾ったうちの一局である。白は韓国の金庭賢六段。
「参考図の黒1とすべり、白2と開かせた後、黒3とかかる進行が、それまでの人間の常識でした。早い時期に三々に入るのは、相手を厚くする悪い打ち方、とみんな思っていたのです」
孔令文七段はいう。
「アルファ碁の打ち出した三々入りは、地を稼ぐだけが目的ではありません。むしろ、相手の地をえぐったうえで、外側の白を攻めてしまうのが狙いです」
実戦の進行1の黒1から白26までと進んだ後の数手で、そういうアルファ碁の考えが盤上に表れる。
「(実戦の進行2の)黒1と打ち込んだ後、黒3のノゾキを利かして5と飛ぶ。厚みだったはずの白△の一団が“壁攻め”を受けそうに見えてきました」
三々に入った際、黒A、白B、黒Cのハネツギを打っていないのが、重要なポイント。これまでは定石でもあり、ハネツギを当然のように決めていたのだが、決めてしまうと、白の一団が強化され、黒3に白4とツイでもらえなくなる。
「このノゾキを利かせられるかどうかが、石の効率を考えるうえで大きいんですよ」と孔七段。「実戦のように進行すると、なるほど白が面白くない。この碁のようにアルファ碁が多用したことによって、序盤の三々入りは人間の間でも一般的になってきました」
「AIっぽい手」は、21世紀の序盤を大きく変えているのだ。(おわり)
●メモ● 60連勝したマスターの棋譜やアルファ碁が自己生成した棋譜をプロ棋士が分析した書籍も増えてきた。洪道場編「進化を続けるアルファ碁 最強囲碁AIの全貌」(マイナビ、税抜き価格2800円)、依田紀基九段の「依田流アルファ碁研究」(同、同2460円)などが代表的なものだ。