上達の指南
(3)張九段、MVP級の活躍
(寄稿連載 2011/03/15読売新聞掲載) アジア大会には日本棋院所属の張栩九段、王銘エン九段、そして女流の謝依旻五段が、台湾代表として参加しました。
普段は切磋琢磨(せっさたくま)し合う間柄ですが、今回はメダルを懸けて戦う対戦相手。ちょっと不思議な感じもあり、どう接していいのか戸惑いもありました。張九段らも微妙な気持ちだったのではないかと推察します。
そんな中で、張九段は6戦全勝とさすがの大活躍。しかも韓国の姜東潤九段、中国の常昊九段、日本の山下敬吾九段という、金銀銅メダルチームの強豪を倒したのですから、その価値は絶大です。今大会のMVPを選ぶとしたら間違いなく張九段でしょう。
張九段が韓国の姜九段を破った一局をご覧ください。
【テーマ図】 白1と模様の接点を占めた時、姜九段が黒2と左下の三々に入ってきました。ここで張九段が打った次の一手に感心させられました。
【1図】 白1と、さらに模様の接点を占めたのです。左下を応じていれば普通で、それで悪いことはないと思いますが、張九段は「とにかく白1が盤上で最大」と言っているのです。黒2と左下を連打されても、白3から黒6までを換わって、再び手抜きをして白7の打ち込みです。
【2図】 黒1には白2のツケから10まで。右辺を荒らした結果は、分かりやすく優勢を築いています。張九段の大局観が際立った進行でした。
●メモ● 日本の国内棋戦でタイトル戦に出ずっぱりの張栩九段は、その過密スケジュールによって、国際棋戦へ思うように出場できない状態が続いている。しかし今年は「なんとか都合をつけて参戦したい」と語る。エースが満を持して登場することで、低迷する日本の再浮上のきっかけとなるか。
白 九段 張栩
黒 九段 姜東潤