上達の指南

秋山次郎九段の「勝負所の決断」

(3)狙い秘めた手に脱帽

(寄稿連載 2018/02/20読売新聞掲載)

 局面が一手でガラッと変わる瞬間があります。そういう手が自分で打てればいいのですが、相手にやられてから、その好手の意味に気がつくこともあります。まったく悔しい限りですが、それも勉強だと思って耐えるしかありません。

 【テーマ図】私の黒番で、黒1の滑りから3と三々に入りました。ふつうの手だと思いましたが、ここで芝野さんにいい手がありました。

 【実戦図1】白1と飛んだのがいい手でした。△2子の動き出しを睨まれていて、なにかと煩わしい。黒としては下辺に弱い石を抱えていますから、どうにも動きにくいのです。すっかり劣勢を意識しました。

 こんなことなら先に、黒イとかけて手厚くしておくべきでした。しかし、そもそも白1の好手に気がついていないのですから仕方ありません。

 【参考図】分からないときは手を抜けとばかり、△を無視して黒1などと他を打つのはいけません。白2の当てから4、6と出切られてしまいます。攻め合いは勝てますが、白8とかけられると、いろいろな利き筋があります。下辺の黒を逃げ出すのは難しくなるでしょう。

 【実戦図2】実戦は黒1と飛んで白の利き筋を減らすことにしましたが、間に合わせの感は否めません。白2のノゾキには黒3とつぐしかありません。そこで白4とかけられては、苦しい限りです。

 【実戦図1】白1の飛びの価値に気がつかなかったのは我ながらいただけません。芝野さんのセンスに脱帽の一局でした。

●メモ● 棋士は座業だから運動不足になりがちだ。10年ほど前からヨガを取り入れていて、体調もよくなったという。「正座には慣れているが、太ってしまうとつらくなるので、ヨガで体重を管理できるのも気に入っています」。他には散歩するくらいだが、健康への不安がないのはなによりだ。

第42期棋聖戦Bリーグ1組
 先番 九段 秋山次郎
 白番 三段(当時)芝野虎丸

【テーマ図】
【実戦図1】
【参考図】
【実戦図2】