上達の指南
(4)寄せは値切り攻勢だがね
(寄稿連載 2006/12/04読売新聞掲載) さて、いよいよ最後の格言です。「名古屋もんはまけたってちょーよ」。名古屋では物を買うとき値段を厳しくチェックします。欲しい物は「ちょっとまけたってちょー」と交渉し、値段が下がったらさらに「おまけしてちょー」と、2段攻勢をかけます。この精神が囲碁でも大切です。
【テーマ図】 黒番でイとロのどちらに打ちたいですか。「とりあえず取れる物はとっとくがね」。イは白石が5個取れて、黒地が5目増えるので合計10目の価値です。次にロの価値を計算してみましょう。
【1図】 黒Aと打つと、黒1から5までは黒の権利です。
【2図】 最終的にはこうなります。白Aに黒B、白Cに黒Dは白の先手。黒E白Fは将来、黒が先手で打てるものとみているのです。
【3図】 逆に白Aと打たれた図です。黒1から3は黒の先手となります。
【4図】 お互いの陣地は最終的にはこの図のようになります。黒Aに白Bは黒の権利。さて、この図に比べ、2図は黒地が5目増えて、白地が11目減っています。合計して16目。つまりテーマ図、黒ロには16目の価値があるのです。ふぅ。
ということで結論は――。黒イは10目、黒ロは16目の価値です。「黒ロはめっちゃんこ大きいがねっ!」。寄せのコツはまず黒ロのように「ちょっとまけてちょー」と白地を減らし、さらに「おまけしてちょー」と先手で得するのです。それに比べ、黒イは10目の価値から増えることはありません。石を取るという見かけの華やかさに惑わされることなく、厳しく石の価値をチェックして、「まけたってちょー」、「おまけしてちょー」と2段攻勢をかけられるようなら、あなたも立派な名古屋もん。決め言葉は「おみゃーさん、負けたってちょーよ」。
(おわり)
●メモ● 青葉四段の今年の成績は11月末までで15勝14敗。女流の棋聖、名人、本因坊、最強位戦で本戦出場を果たした。本人は「いいときと悪いときの波が激しすぎます。本戦からさらに先をめざさなければ」