上達の指南

遠藤悦史七段の「捨て石の考え方」

(1)攻められた時が見切り時

(寄稿連載 2008/02/18読売新聞掲載)

 私はアマチュアの方を相手に指導碁を打つ機会も多いのですが、した手が負けるパターンというのは決まっています。それは、弱い石を作ってしまい、その石を追い回されているうちにあちこちに悪影響が出てボロボロになる――というものです。
 いかがですか。皆さんも身に覚えがあるのではないでしょうか。置き碁の場合、力量差があるのですから、弱い石ができてしまうのは仕方がありません。問題は、弱い石ができた時にどうするか、です。この方針さえ間違えなければ、そう簡単には負けません。そして、こうした際に有力な考え方となるのが「捨て石」なのです。

 【テーマ図】 私の指導碁から。白1と中央をハネられた場面ですが、気になるのは当然、中央の黒。この一団をどう動いたものでしょうか。

 【1図】 実戦は黒1の飛びでした。しかし結論から言えば、この手は重い手で失敗です。左辺にちょうど△が待っているので、白2、4と追撃されて黒が苦しくなってしまいました。黒5から9と頭を出しても白10と打ち込まれ、五子という力量差を考えれば、これはすでに黒の負け碁としたものでしょう。原因は、黒1とまともに担ぎ出したことにありました。

 【2図】 黒1のハネが正解でした。白2と切られるのが怖いかもしれませんが、これには黒3の当てを利かせてから5と伸び、中の黒を捨ててしまうのです。白10まで取られても、黒11と上辺を構えることができれば、黒の必勝形となっていることがお分かりいただけるでしょう。ちなみにこの後、白Aと切ってきたら、黒B、白C、黒Dとさらに捨てます。

 「攻められたな」と感じた時こそが、捨てるタイミングなのでした。

●メモ● 遠藤七段は1971年、北海道岩見沢市出身。大枝雄介九段門下。90年入段、2002年七段。94年棋聖戦四段戦準優勝。丁寧で分かりやすいアマチュア指導に定評がある。

【テーマ図】
【1図】
【2図】