上達の指南

遠藤悦史七段の「捨て石の考え方」

(2)「小さく取らせる」発想で

(寄稿連載 2008/02/25読売新聞掲載)

 前回、「攻められるくらいなら捨てよ」という趣旨のお話をさせていただきました。具体的には、攻められたと感じた時こそが捨て時、ということでしたね。今回もその続きです。

 【テーマ図】 私の指導碁に題材を採りましたが、白1と押された場面で、黒はどう対処するかという問題です。
 ポイントは当然、中央黒の進退となるわけですが、この局面で頭に入れておかなければならないのは、白イと打たれると上辺の黒はほぼ取られ、という点です。裏返せば、中央の白にも眼はないのですが、この白は見た目以上に強いということです。さらに下辺も白ロのあたりが、黒としては心細い所でしょう。
 こうした事情を踏まえて、黒はどのような方針で臨むべきでしょうか。

 【1図】 実戦は黒1と、まともに動き出しました。しかし、これこそが白の思うツボで、白2のケイマが絶好点。続いて黒は3から7とモガきましたが、白8が再度の絶好点となってしまいました。こうなると黒1と担ぎ出した手前、黒9と逃げざるを得ませんが、白10から12と、今度は下辺にまでなだれ込まれてしまいました。
 上辺の黒は白Aの死に残りですし、これはもう黒の敗勢です。何が悪かったのかと言うと、黒1と中央を助けた方針にあったのでした。

 【2図】 何はともあれ、まずは上辺、黒1の守りが急務でした。黒は右上と右下に立派な地を持っているのですから、中央の一団ぐらい取られても構わない――この発想が大切なのです。

 白2の出には、黒3と身をかわし、白4と小さく取らせる要領。黒5で左下を地とすれば、すでに黒は必勝形です。黒1、3と捨てる感覚を、ぜひ身に着けてください。

●メモ● 遠藤七段は日本棋院野球部の監督兼捕手。無駄な動きを究極まで省いたシンプルな打撃が身上で、一見すると無造作とも映るが打率は高く、貧打線チームの数少ないポイントゲッターとなっている。

【テーマ図】
【1図】
【2図】