上達の指南

遠藤悦史七段の「捨て石の考え方」

(3)どっちつかずは失敗の元

(寄稿連載 2008/03/03読売新聞掲載)

 今回は私の失敗例をご覧いただきましょう。動くか捨てるかの判断を誤ったために局勢を損じてしまった、苦い思い出です。

 【テーマ図】 上辺から中央に連なっている▲7子。ご覧のように根拠はまったくなく、周囲もどちらかと言えば白が強いので、私は当初「この7子は動き出さずに捨てる」つもりでいて、実際に黒1から7と左上を打ちました。
 今になって考えてみると、黒1では8と飛んで早めに逃げているのが良かった気はしますが、まあ、それはよしとしましょう。黒1から7も上辺の黒を安定させるとともに、地としても大きな所ですから。
 問題だったのは、白8のボウシに対する私の対応でした。直前まで「▲7子は捨てる」つもりでいたのに、いざ白8と打たれてみたら、気が変わってしまったのです。

 【1図】 黒1と動き出してしまいました。白2のケイマに黒3と二間飛びして、捨て石含みの打ち方ではあるのですが、助けるのか捨てるのか、黒の方針が一貫していません。こうした"どっちつかず"の打ち方は大概の場合、悪いとしたものです。

 白8とツケられた時に黒9と左辺と飛び、この時点で捨てることにしたのですが、白10と取りきられてみると、味もそっけもありません。一度、黒1と動いている分、取られた石も大きくなっていますし、この分かれは明らかに黒の失敗です。

 【2図】 最初から捨てるつもりだったのですから、当然その方針を貫き通すべきでした。具体的な着点を断言するのは難しいのですが、例えば黒1と左辺の大場を占め、白が2と取りきってくれば黒3と左下を構えます。これなら方針が一貫していて形勢も互角。これからの碁でした。

●メモ● 本文の補足として遠藤七段からひと言。「中央の石は根拠を作りにくいので、対処の方法は二つしかないと覚えてください。早逃げ(テーマ図の黒1で8と飛ぶ)か捨てる(2図)かです」

【テーマ図】
【1図】
【2図】