上達の指南

藤沢秀行名誉棋聖・この4局

(2)緩急自在の打ち回し選・高尾紳路九段

(寄稿連載 2009/05/19読売新聞掲載)

 第3期の七番勝負(1979年)で、藤沢は石田芳夫王座の挑戦を受けた。前期の加藤正夫本因坊に次いで、大きく年齢の離れた木谷一門の精鋭である。その前に、藤沢は盤外の難敵である「断酒」と戦わねばならなかった。七番勝負の1か月ぐらい前から酒を断つ生活に入るのだが、これが並大抵ではない。一口でも飲めば止まらなくなり、それまでの努力が水泡に帰す。幻覚、幻聴に悩まされ、痛々しかった。壮絶な自分との闘いは、第7期、趙治勲名人に7連覇を阻まれるまで続けられた。

 【局面図】△の伸びに対し、黒1と押したのがハイライト。現地で解説を務めた白石裕九段は「秀行先生以外でこの手に思いつくのは、梶原先生(武雄九段)しかいないでしょう」と感じ入った。この局面では右辺が大きく、黒1はそれを大事にしたのだった。

 【参考図1】これを平凡な黒1のケイマなら、白2のケイマ、黒3の肩突きとなりそうだが、黒の模様が薄くなる。

 【参考図2】黒の押しに対し白1の出なら、黒2、4と伸びて2子を捨て、局面図、イの二間に構える。これは線が太い。

 【実戦図】白1のノゾキから3に、黒4と手を戻し、白5、7と連打を許したが、黒8と三々に入った。

 高尾九段「黒が厚くなったので、今度は地を稼ぐ。力をためてからの緩急、その呼吸が素晴らしい。こういう碁を打ってみたいものですね」
(赤松正弘)

●第3期棋聖戦● 石田王座は勝負の前に、「秀行先生と番碁を打つのは初めて。建前としては、一生懸命勉強させていただきます、ということなのでしょうが、本音の方は4.5対5.5で棋聖は私のものでしょう」と語っていた。結果は、"コンピューター"が正しく作動せず1勝4敗で敗れた。
写真=石田王座と藤沢棋聖(右)

第3期棋聖戦七番勝負第4局
  白・王座 石田芳夫
  黒・棋聖 藤沢秀行

【局面図】
【参考図1】
【参考図2】
【実戦図】