上達の指南
(3)二手一組の華麗な利かし選・高尾紳路九段
(寄稿連載 2009/05/26読売新聞掲載) 藤沢と林が七番勝負を戦うのはこれが4度目で、それまでは林が2勝1敗と勝ち越していた。難解な局面になった場合、藤沢が直感と勘に頼ることがあるのに対し、林は諦(あきら)めずとことん読み切ろうと努力した。体力は十分でそれが粘りを生み、「二枚腰」と呼ばれていた。藤沢はどんなにスピードを出しても、離されずにじっとついてくる林を苦手にしていた。ファンはそれらの事情をよく知っており、読売新聞社が募集した予想投票では、林が55%の支持を得た。
【実戦図1】△とこすんだ時、黒1と二線に打ったのが気のつかない手。藤沢は瞬間的にひらめいたそうだ。立会人の山部俊郎九段は「この手を見ただけでも、はるばる札幌まできたかいがあった」と激賞したという。藤沢はこれを捨て石にして利かそうとした。いかにも華麗だ。
【参考図1】これを黒1と動き出すのは、白2から6までとあっさり捨てられ、8と開かれてつまらない。
【実戦図2】白1に、黒2が二手一組の好手順。林は白7とつけて、藤沢の意中をいくのを嫌ったが、黒18の伸びとなり、黒がはっきり優勢である。
【参考図2】途中、白1とコスミ出すのは、黒2と押さえ、白3、黒4に、白5とつがされるのがつらい。
高尾九段「戦いの最中に、ここまで気が回らない。僕にはとても打てません」
(赤松正弘)
●第4期棋聖戦● 七番勝負の前夜祭で、林は「最近の秀行先生の碁を並べてみると全くスキがない。しかし、唯一の欠点ともいえるポカを引き出して、なんとか勝ちたい。先生が禁酒なら、私は禁マージャンで対抗します」と決意を語ったが、逆に自分にポカが出て、結果は1勝4敗。
写真=第1局の終局直後。藤沢棋聖(右)と林九段
第4期棋聖戦七番勝負第1局
白・九段 林海峰
黒・棋聖 藤沢秀行
(1980年1月)