上達の指南
(4)「広い碁盤」に雄大な構想選・高尾紳路九段
(寄稿連載 2009/06/02読売新聞掲載) この七番勝負まで、藤沢と大竹は2度、三番勝負を戦い、1勝1敗だった。藤沢にすれば、若手のリーダーとして活躍する大竹は、いずれは芸の上で決着をつけなければならない相手だし、大竹としても、藤沢を倒さなければ囲碁界の制覇は成らない、と考えていただろう。この対決につけられたキャッチフレーズが、「華麗」の秀行か「美学」の大竹か――。読売新聞社がファンから募集した予想投票では、大竹支持が約55%だったが、プロの間では大竹乗りがもっと多かったと聞いている。
【実戦図1】3か所で実利を取った黒が、やや打ちやすい形勢と見られていた。白1のケイマが雄大な構想で、悠々たる大河の流れを思わせる。実利を重視する人には、怖くてとてもこうは打てないだろう。
【参考図】これを白1とつけて、黒1子への攻めを急ぐのは、黒2と逆にケイマされ、スケールが小さくなる。藤沢の気に入らなかった図であろう。
【実戦図2】白14のカケツギで力をため、16の割り込みから勝負の形に持ち込んでいる。
高尾九段「面白い碁でした。お互い渾身(こんしん)の一局だと思います。先生は碁盤の使い方の広さがすごい。このように線の太い碁はまねができません」
藤沢は大竹を下して5連覇を果たし、名誉棋聖の称号を得た。
(赤松正弘)
(おわり)
●第5期棋聖戦● 対局前、大竹は「秀行先生に番碁を打っていただきたい、というのが夢でした。その夢がかなえられてうれしい」、また、「秀行先生のあらゆる芸を盗み、それをあとに続く者に伝えるのが私の義務」とも語っていたが、無念のストレート負け。
写真=対局前のひととき。藤沢名誉棋聖(左)と大竹十段
第5期棋聖戦七番勝負第3局
白・棋聖 藤沢秀行
黒・十段 大竹英雄
(1981年2月)