上達の指南
(1)覚えるより工夫すること
(寄稿連載 2009/10/06読売新聞掲載) 都内で「新宿こども囲碁教室」を開講して、来春で早10年を迎えます。こども教室を始めたきっかけは、日本が国際棋戦で勝てなくなったことです。次代を担う子どもたちに囲碁を広め育てていこう、と考えたのです。
当初、13名でスタートしましたが現在は140名ほどになりました。これとは別に院生の「強化道場」を始めて3年目です。プロ棋士となったのは寺山怜二段だけですが、現在、日本棋院院生が4名おり、うち3名はAクラスに在籍していて今後の成長が楽しみです。
教室では、子どもたちの成長に新たな発見の日々です。囲碁を通じて、一生懸命、物事に打ち込む楽しさを子どもたちに知ってもらえれば、と思っています。
今週から教室の実戦譜を題材に、子どもたちの碁を知っていただき、読者の皆さんの上達の一助になればと思います。
【テーマ図】 私と小学2年のS君の五子局です。白15の掛かりに、S君の黒16のハサミは積極策。
【1図】 黒1の受けには白2と打つ予定で、黒3以下の戦いが予想されます。これで黒も悪くありません。白2でAとゆっくり打つ選択肢もあります。
少し高度になりますが、テーマ図の黒22で30に押さえ、白26に黒イ、白ロも考えられます。
【2図】 黒22で、黒1に伸び、白2に黒3は、白4以下黒7のツギが愚形で不満です。
実戦は、白31までよどみなく進行しましたが、実は黒16以下、国際棋戦で類似形がありました。そこでS君に、それを知っていたのか尋ねると、「全然知りません」との返事。ベストではないにしろ、自分で考えて工夫すればそれなりに打てるもので、大事なのは覚えることよりも「自分で工夫すること」です。
実戦に戻り、黒32と並んだ気合もよく、黒38から40に切り、白43まで白を小さく生かし、堂々たる打ちっぷりです。
●メモ● 藤沢八段の「新宿こども囲碁教室」は夏休みの間、ほぼ無休で開講。藤沢八段も連日指導にあたり、「もう40代半ばですから、体力の限界」とも。新学期と共に、こども教室にも新しい生徒も入ってきて、現在は週に5日指導に出ている。「子供たちの成長が楽しみ」と目を細める。