上達の指南
(4)見事に決まったツケ一本
(寄稿連載 2008/09/29読売新聞掲載) ◆準決勝 (白)九段・古 力(中国) (黒)九段・常 昊(中国)
(選 倉橋正行九段)
中国のエース級同士の対戦。準々決勝で、古は韓国の李世ドル九段の大石を召し捕って勢いに乗り、常は韓国の朴永訓九段を鮮やかな打ち回しで退けた。直線的と緩急自在、剛腕と柔軟、両者の勝ち方は対照的であった。
【名場面】 白1の切りに黒2と引いたため、白3のツケときれいな手筋が決まった。倉橋九段は黒2を敗着、と断定する。
【変化図1】 黒は1の当てから3と渡って辛抱するしかなかった。白4と飛んで、これからの碁という。これを白Aの取りは急がない。黒B、白C、黒Dの下がりで応じられて、白の眼形に悪影響を及ぼすからだ。
【変化図2】 名場面の白のツケに、黒1とハネ出す手はない。白2、黒3の時、白4が好手で、絶対の黒5に白6と押さえられ、攻め合いは負けてしまう。
【実戦図】 黒2の後退は仕方がないが、白3のツキ当たりから、悠々、5とケイマされた。白は先手で安定し、完全に主導権を握った。この後、黒Aのツキアタリから白B、黒Cと切る狙いはあるが、白Dの当て、黒E、白Fと補強されて大したことはない。右下の白は、当て一本で生きだから、しゃれている。
倉橋九段「こんなに手筋が見事に決まったのは珍しいことでした」
攻守ともに古の充実ぶりが際立った大会だった。
(赤松正弘)
●メモ● 北京で世界選手権の準々決勝が行われた日、中国棋院の華以剛院長(59)は読売新聞のインタビューに、「棋士の待遇が安定したのが躍進の原動力。韓国を抜くため、さらに普及させたいし、中国のレベルアップに尽力してくれた日本にも強くなってほしい」と語った。