上達の指南
(3)まね碁をしかられる
(寄稿連載 2009/03/23読売新聞掲載) 木谷実さんが強いことは来日前から知っていました。当時、若手ナンバーワンで、「怪童丸」と異名されていました。日本でプロ棋士となった私は、木谷さんにしばしば負けていたので、この対局の前に兄弟子の橋本宇太郎さんに「初手、天元でもよいかしら」と相談したら、「それも面白いでしょう」と了解してくれました。コミのない当時、まね碁を続けていけば最終的に二、三目勝てるのでは、というのが私の計算でした。
「実戦譜1」の白64に黒65でようやくまね碁をやめました。普通に打っていけば黒が有利で、作戦が成功したといえましょう。
しかし「実戦譜2」の黒1が油断した手で、7とツゲばまだ優勢だったのに、白2の切りにまいりました。黒3で「参考図」の黒1と当てると、黒の一団が切られてしまうので、黒3と妥協するしかなく、白4と▲を先手で取られてしまい、逆転されてしまいました。
局後、師匠の瀬越憲作先生から「まね碁はやっちゃ困る」とおしかりを受け、その時だけは、先生は私が負けたのを喜んでおられる様子でした。
木谷さんは、生涯の親友であり好敵手でありました。今年の棋聖戦七番勝負第二局が、かつて木谷道場があった平塚で行われ、併せて木谷さんの生誕百年の祝事もあり、私も参加させていただきました。
(構成・牛力力)
●メモ● 呉氏が今月、シンガポールを訪れたのは、応氏杯世界プロ選手権戦決勝五番勝負の審判長を務めるためだった。「碁の神様」の来訪に現地は大歓迎。マスコミの注目度も対局者以上だった。呉氏も「ますます元気になった」と語り、大盤解説会での検討にも加わってファンを喜ばせた。
白:四段・木谷実 黒:三段・呉清源
(1929年)