上達の指南

呉清源師の「生涯一局」

(4)時代と共に変化する定石

(寄稿連載 2009/03/31読売新聞掲載)

 雁金準一先生は本因坊秀栄のお弟子で、棋界の長老でしたが、日本棋院に属さず、普段はなかなか打っていただく機会がありませんでした。たまたま私が読売新聞の棋戦で九連勝したので、新聞社が特別に企画して打っていただけました。
 「実戦譜」の白6までは昔からのごく普通の定石で、黒は先手で治まれるので不満はないとされています。しかし白4で「参考図1」のような打ち方もあります。当時、白は隅に封鎖され、よくないと思われていましたが、今では白の梅鉢が好形で、後に外側の黒が攻められる可能性があり、白の方がむしろ面白いと考え方が変わってきました。
 また今は「実戦譜」の黒7で、「参考図2」の黒1と白2を交換してから黒3と開き詰めるのが手順を尽くしているとされるようになりました。単に黒3とすると白Aの好点を打たれます。
 なお、「参考図2」の白2で「参考図3」の1、3と出切るのは、白が無理です。黒6の後、白は上辺を渡らねばならず、黒Aと切られてしまいますから。
 実は「参考図2」の黒1では、「参考図4」の1から5までが、かつては定石とされていたのです。
 本局は黒の2目勝ちでしたが、勉強になりました。今も若い人の碁を調べますが、定石は時代と共に変化するとつくづく思います。
(構成・牛力力)

(おわり)

●メモ● この対局は「本社特選手合棋譜」として、1931年(昭和6年)7月17日から8月13日まで25回にわたって、読売紙上で紹介された。厳格公正を期すとして、対局者は対局場の旅館に缶詰めとなり、外部との一切の接触を禁じられた。江戸時代の御城碁にならったものという。

白:七段・雁金準一 黒:四段・呉清源
(1931年)

【実戦譜1】
【参考図1】
【参考図2】
【参考図3】
【参考図4】