上達の指南
(1)コウの手入れが問題化
(寄稿連載 2012/03/06読売新聞掲載) 秀格と号した高川格さんの本因坊9連覇は、まことに見事としかいいようがありません。
その間に、私は毎日新聞社主催で高川さんと7次にわたって「三番碁」を打ちました。1次は高川さんが七段だったので、手合は高川さんの先相先、2次からは互先で、1次は1952~53年、2次は55年、3次は56年、4次は58年に打たれ、4次の第2局まで私が11連勝しました。
本局は第5次第2局で、58年の暮れに打たれた第1局は私が負けています。
細かい形勢です。「実戦図」の白1で「参考図1」の1と打っていれば、白の半目勝ちでしたが、私は実戦の進行でもよいと思っていました。
「参考図2」が終局の局面ですが、黒は1からコウとする手段が残されています。
ルール上では、白が一手、手入れを要します。しかし、現実には黒にはコウ材が全くないので手入れを必要としないというのが私の見解でした。白24とコウを抜いた後、黒には打つところがないのです。それなら白の半目勝ちです。
結局、私が譲歩して、判定により黒の半目勝ちとなり、5次は私の連敗で負けが決まりました。本局はコウの手入れ問題として、当時、その是非が話題となりました。
なお、6次は私の1勝2敗、7次は2勝1敗で、「三番碁」は私の5勝2敗で終わりました。
(構成・牛力力)
●メモ● この対局の後、呉師は囲碁規約の不合理な点にすみやかに対処するよう日本棋院に要望。棋院は規約を改正した。しかし問題は解消せず、第32期棋聖戦七番勝負、山下敬吾棋聖と趙治勲挑戦者の第5局でも同様局面が出現。この時は半目勝負ではなかったため、実戦的に解決され事なきを得た。
写真=呉師(左)と高川本因坊(1955年)
第5次三番碁第2局
白 九段 呉清源
黒 本因坊 高川格
(1959年1月)