上達の指南
(2)形の急所に回り1目勝ち
(寄稿連載 2012/03/13読売新聞掲載) 読売新聞社主催の「第3期日本最強決定戦」は1959年12月から61年1月にかけて行われました。出場者は坂田栄男九段、木谷実九段、橋本宇太郎九段、橋本昌二九段、岩田正男(後に達明と改名)七段と私の6人のリーグ戦で、コミなしで黒、白1局ずつ、計10局の対局でした。
本局は私にとって初戦となる1局でした。
「実戦図」は中盤の局面ですが、黒1から3と切り違いました。左辺からの白の一団を狙ったモタレ戦術です。
しかし私は、黒1で「参考図1」の1と打たれるのがもっとも嫌でした。そこが形の急所で、そこを打てるかどうかで碁の厚さががらっと変わります。その後、黒3と入っても遅くはなかったでしょう。
白4で、「参考図2」のように1から3、5と打つのはむさぼりとしか言えません。黒10まで先手で打たれて、12から16と総攻撃されると、白はおそらくしのげないでしょう。
「実戦図」の白4、6から8と急所に回れて、中央の黒が薄くなりました。黒13は狙いの筋ですが、白24まででだいぶ厚くなりました。
本局は白が1目を残し、私は好スタートを切ることができました。本棋戦は最終的に私と坂田九段がともに6勝1持碁3敗で首位を分け合いました。日本最強決定戦はこの第3期で幕を閉じました。
(構成・牛力力)
●メモ● 日本最強決定戦の創設について、読売の社告は「勝者が万人の認める日本最強者、世界選手権保持者だということであります」とうたい、囲碁ファンで知られた作家、村松梢風は「実質的には名人戦」と記した。第1期は呉師、第2期は坂田九段が優勝した。
写真=第3期日本最強決定戦での呉師(左)と坂田九段
第3期日本最強決定戦
白 九段 呉清源
黒 九段 坂田栄男
(1959年12月)