上達の指南

呉清源師の「生涯一局」その十一

(1)来日決めた13歳の棋譜

(寄稿連載 2012/09/25読売新聞掲載)

 今年、私は数え年で99歳、白寿を迎えました。5月に家族が、6月には林海峰さんをはじめとする棋士10人ほどの方々が祝ってくださいました。
 これまで囲碁に精進できたのも、これらの方々をはじめ、全国の囲碁愛好家のご支援があったからこそと感謝しております。
 私が来日して囲碁の道に入って、はや84年。白寿を機に、当時を思い出して来日前の打碁を取り上げてみました。
 「実戦図」は、北京で打った井上孝平先生との対局です。私はまだ13歳でした。先生とは先で3局打ちましたが、1勝1敗1打ち掛けでした。本局は10時間以上もかかったのを覚えています。会心の勝利でした。
 当時、北京に滞在中の古美術商、山崎有民氏が私の才能に注目し、日本の瀬越憲作先生にこれらの棋譜を送り、それが認められて来日するきっかけとなったのです。その点からも思い出の一局です。
 白6で、「参考図1」の白1とかかると、黒2の好点に打つことができます。
 また黒7で、「参考図2」の黒1と守るのが当時は一般的でしたが、白4と開き詰めされるのが、私は嫌いだったのです。
 白12と下がって難解な戦いとなりましたが、「参考図3」のように白1と横に伸びるのが簡明でした。後にAの切りを狙って、白27とかかります。
 山崎さんは最初の恩人と言えましょう。
(構成・牛力力)

●メモ● 呉師は早くに碁を教えてくれた父を亡くした。病床で父は、呉師に碁石と碁の本を渡した。棋士となったのは父の遺言でもあったという。その後、碁席で連戦連勝し、「碁の天才少年」と呼ばれた。日本人クラブにも招かれるようになり、天才少年の名は日本にも伝わる。
写真=白寿の祝い。和子夫人、林海峰名誉天元らと

白 五段 井上孝平
黒 呉清源
(1927年11月)

【実戦図】
【参考図1】
【参考図2】
【参考図3】