上達の指南

呉清源師の「生涯一局」その十一

(3)試験経て三段での初対局

(寄稿連載 2012/10/09読売新聞掲載)

 日本棋院に所属した時、私に何段を与えるかが問題でした。当時は段位は絶対的な権威を持っていました。そこで私は三段格と見なされ、試験対局の三局に連勝して正式に三段を認められることになりました。
 本局は、私が正式に三段として初めて臨んだ対局です。前田四段は秀哉名人門下で、努力家であり、詰碁制作や文章もよくなされて、有望視されていた新鋭でした。
 「実戦図」の黒11までは、ごく普通の秀策流ですが、今なら黒11では「参考図1」の黒1と打ちたいですね。右辺に入らないにしろ、コスミより黒3とけいました方が良かったと思います。黒11ですと、白12、14と悠々と開かれてしまいますから。
 白18はごく普通の手のようですが、深い見通しのある一手です。というのは「参考図2」の白1と単に右辺を守ったりするのは甘いのです。これに対し、白18は左下の黒の勢力の消しになっていますし、右下の黒2子をにらんでもいるのですから。
 少し戻りますが、黒15は「参考図3」の黒1と上辺に打つ方がより広かったでしょう。左辺に打つにしても、Aと低く打つか、あるいは高く打つなら一路広くBと打つ方が良かったでしょう。
 結局、本局は私に1目残りました。正式の三段として初対局に運良く勝てて、ほっとしました。記念すべき一局です。
(構成・牛力力)

●メモ● 試験碁の1局目は篠原正美四段。3日がかりの対局となり、中押し勝ちだった。2局目は秀哉名人に2子で。初手を隅の星に打った。当時としては珍しい一手だった。4目勝ちし、「2子局の模範」と名人に褒められたという。3局目は村島義勝四段で、5目勝ちした。
写真=後に行われた呉清源―前田陳爾の三番碁(1956年)

白 四段 前田陳爾
黒 三段 呉清源
(1929年)

【実戦図】
【参考図1】
【参考図2】
【参考図3】