上達の指南
(1)新布石で快進撃を開始
(寄稿連載 2013/02/05読売新聞掲載) 昨年の暮れ、結婚して70年の歳月を一緒に歩んだ妻、和子が他界しました。長い間、なにかにつけて私を支えてくれた和子に、感謝の気持ちをなんと言ってよいのか分かりません。ただ、ありがとう。
人の命は有限ですが、碁の変化は無限です。これを機に私の有限の命を燃やし尽くして、無限の碁をできる限り解明するためにいっそう精進しようと、心を新たにしています。
1932年の大手合で、私は春季8戦全勝、秋季7勝1敗で昇段、翌年も春、秋季とも7勝1敗の好成績でしたが、それ以上に囲碁界を驚かせたのが、木谷実さんとともに打ち出した新布石でした。本局はその典型です。
「実戦図1」をご覧下さい。今見ると、自分でも驚くような碁を打っています。白の位の高い新布石に対抗して、黒は低い布石を敷いています。
白8で「参考図1」の白1のように打つと、後に黒2と来られた時に、白3と封鎖するなら、以下、黒12まで白は愚形にされてしまいます。
「実戦図2」の白14から18は、自身を補強しながら中央の黒の一団を見ているのです。
黒29では、私としてはイの方に打たれるのが嫌でした。白30に黒31はつらすぎます。「参考図2」のように来られたら、その後の展開はどうなっていたでしょう。本局は156手まで白の中押し勝ちとなりました。
(構成・牛力力)
●メモ● 呉師と和子夫人は知人の紹介で出会い、1942年に結婚した。その年、呉師は八段に昇段している。夫人の葬儀は12月31日、晩年を暮らした神奈川県小田原市内で営まれた。林海峰名誉天元、張栩棋聖、王立誠九段らも参列した。遺影の夫人は生前同様、皆にやさしくほほ笑みかけていた。
写真=新婚の頃の呉師と和子夫人
日本棋院秋季大手合
白 五段 呉清源
黒 四段 小杉丁
(昭和8年=1933年)